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         第3回勉強会報告

不良債権処理と小泉内閣
     講師 金子 勝(慶應大学教授)

お手盛りの不良債権処理がなお不透明のまま、3月の金融危機が現実化しつつある。政府のルールなき公的資金の投入は止まるところをしらない状況にある。そのツケは中小企業や国民、マイノリティーが負担するのか。今こそ市民が監視する金融アセスメント法が必要だろう。(戸沢行夫)
これは、2001年11月7日におこなわれた、緑の政策研究会「結−YUI−」第3回研究会での金子勝さんの講演「不良債権処理と小泉内閣−対抗プランの提言」の一部をまとめた要旨です。文責は本紙編集部にあります。


米バブル崩壊とは

 大恐慌とは異なる点もあるが、世界同時不況と戦争、テロという事態が1930年代を連想させる。アメリカのバブルの破綻が危険なのは、70年代半ば以降のグローバリズムの行き着く先だから。
 90年代、投機マネーが新興工業国を食い荒らした。「一人勝ち」したアメリカに金が集まり、各国とも内需が唯一旺盛なアメリカに輸出しないと経済が保たれない、アメリカ中心の循環構造がEUをも巻き込みながらできあがった。アメリカのバブル崩壊は、世界同時不況を招く。アメリカのITバブルに依存した東アジア諸国の影響は深刻だ。
 金融的には国際的な協調関係が進み、通貨の量的緩和をしているため、世界中でマネーが溢れている。ところが金利が下がって金利差がない。マネーが行き場を失っている。不動性が高く、金融相場が非常に激しく変動する状態がしばらく続くだろう。
 世界経済に混乱をもたらす二つの国がアメリカと日本。アメリカは、来年以降、膨大な財政赤字を抱えるだろう。世界の基軸通貨国が膨大な財政赤字を抱え、貿易も赤字だから「双子の赤字」の状態。また、アメリカの長期金利が上がって、国債を大量に発行し、国債圧力が絶えずかかる。各国はアメリカを支えようとするだろうが、どこまで支えきれるかは不透明。
 日本では、デフレ不況がひどくなる一方で、銀行は不良債権を処理する体力はない。きちんと査定していないため大量に不良債権が眠っている。郵貯民営化、銀行国有化という笑えない冗談のような状況が差し迫っている。日本はグローバリズムに対抗するための自浄作用が必要だ。

レフェリーなき日本

 99年2月末、金融再生委員長だった柳沢氏と経済戦略会議の最終報告に参加した竹中氏らが決めた公的資金7.5兆円の投入を決めた。
 98年度、つまり99年3月末の決算を見ると、銀行法で分類された、リスク管理債権、金融再生法で決めた開示債権、銀行の自己査定は、どれもバラバラな数字だ。
 リスク管理債権は、残高が99年3月末で約29兆6000億円。2001年3月には32兆5000億円。金融再生法では、2001年3月、43兆円の開示債権がある。銀行が不良債権を処理した額は、98年3月が一番多く、13兆6300億円。2001年3月末には処理額が半分以下に落ちている。99年3月の不良債権処理が政策的に失敗しているということは明白。しかも自己査定で利子が延滞されている問題債権全体をみると150兆円近くにのぼる。問題の本質は、国有化方式か、公的資金で土地を買うのか優先株を買うのかという、方法の違いではない。
 査定が厳格でないことが問題。マイカルは1兆7400億円の有利子負債を抱えて倒産したにもかかわらず、銀行の査定では要注意先債権だった。要注意先債権は、通常、(損失に備えた)引き当てを5%しかしていないため、みずほフィナンシャルグループは一気に赤字に陥った。ダイエーの有利子負債は2兆円を越えている。ダイエーのメインバンクは、みずほファイナンシャルグループでは富士銀行、UFJの三和と東海銀行、そしてさくら銀行。今、問題企業が潰れれば銀行は成り立たないのが分かっていながら、引き当て不十分なまま、問題先送りのため債権放棄し、中小企業を潰している。
 ルールに基づいた公的資金の投入をしなければ中小企業はさらに潰れる。不良債権額は銀行が申請しているよりずっと大きい。また、破綻先、破綻懸念先というのは中小企業か、中堅でも融資が100億円以下の企業。これらは引き当てが済んでいる。要注意先や正常債権でも破綻先でも本当の意味での破綻先、破綻懸念先が含まれている。
 銀行の不良債権問題は、引き当てを積んでいない残りの7割の企業が潰れているからおきているのだ。世界同時不況が進むなか、日本も問題企業の破綻が進んでいけば、金融システムが破綻する。
 99年2月に法的資金を入れたとき、竹中氏は、3年間経営者の責任を棚上げした(金融再生委員長は柳沢氏)。彼らは、三年間責任を棚上げするから、いくらほしいか手を挙げてくれ、といった。経営者たちが、不良債権にかんする正確な数字を明らかにするはずはなく、自分が定年退職して楽に暮らせるまでもつくらいいただければ何とかなるというに決まっている。
 厳格な査定なしに銀行を国有化しても、長銀のように、実態が分からず国内企業が買えないうちに、足下を見られた外資に買われ、3兆円以上も税金を損することになる。
 今の不良債権問題は、ルールがない、レフェリーがないから何をやっても失敗する。よく「どういう責任を問うのか」という質問や「責任をとらせるのだから銀行経営者を監獄に入れるのは当然」というバッシングの類を聞くが、両方とも誤解。
 バブルの犯罪は立証できない。犯罪として問えるのは、銀行法違反、商法違反だけ。国会が主導し刑事罰を問う当たり前の犯罪を摘発するという行為によってしか不良債権の本当の額は明らかにならない。悔しいから銀行員の給料を下げろという話ではない。
 情報が明らかになっていないのが何より問題。企業再建ファンドという、公的資金を預ける4000億円のファンドを作る話も、うち1000億円を日本政策投資銀行が出資する。日本政策投資銀行は特殊法人ではないか。特殊法人を民営化していて、片方で損をする付けをまわすのか。

底割れさせない政策を

 私は、金融アセスメント法を提案したい。これはアメリカのコミュニティ再投資法というものを参考にしている。黒人街やマイノリティ街で運営されている白人の銀行が、黒人やマイノリティに貸しているかを情報開示させるところから始まった。日本も中小銀行に公的資金を入れるなら、銀行に法的なしばりをかけ地元の企業に貸しているかを情報開示をさせ市民の監視のもとにおくことが必要。
 ただし、情報を開示し、厳格な査定とルールに基づいて不良債権を整理したとしても、景気は良くならないだろう。20年、30年は最低付き合うつもりで、底割れをしない政策を売っていく必要を常に強調しなければならない。国債暴落を防ぐため永遠に日銀が買い支えなければならなくなるので、財政資金の流れを変えるしかない。
 年金は拠出税法式にする。保険料をそのまま税に転換し、所得に比例する社会保障税にする。現役世代ともらう年金が、現役世代の所得の上昇率にリンクして、毎年年金の給付が変わっていく。出と入りを対応させるのだ。
 旧年金をもらっている人は旧年金の貯金を取り崩して、切り下げを少なくする。すると、公共の宿や特殊法人に運用しているものが、整理を余儀なくされ、官僚、政治家が国民の年金を食い散らかしていることが明らかになる。
 地方財政は赤字で、大規模公共事業はできない。地方の単独事業で公共事業ができないから、景気を支えられない。大規模公共事業批判で終わっては、小泉の構造改革と変わらない。公共事業に依存して生きてきた人の生活どう成り立たせていくか。ゼネコンを潰したり、整理してもそれにより生活を成り立たせている650万人の生活に波及させない仕組みをどう作るか。
 地域の経済循環、自前で生きていける自立した経済循環を、単に環境保全するということではなく、人々の生業を成り立たせていくことと結びついたより大きな政策体系に位置づけなおすことでリアリティをもつ。分権も重要。都道府県と市町村の関係も見直し、施設の適正な配置をする。施設は都道府県、対人サービスは市町村というように。
 弱者が弱者をたたく市場原理主義のもと社会的な連帯が失われるなかでのオルタナティブを提示していきたい。


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